ほっとハウスが生まれるまで⑦
2026年08月24日
前回の話ではAさんから工事利益0円の工事を受注して、現場の方も順調に進んでいる所までお話ししました。
Aさんの工事は平成5年の3月までに完了し、Aさんに仕上がりを確認して頂いた上で、無事に引渡しを終える事が出来ました。こちらは1棟借り上げの社宅でしたので、これで全て業務完了となりました。しかし同時期に完成した南こうせつさんの賃貸マンションは、ここからが勝負でした。鉄筋コンクリート造3階建てにもかかわらずエレベーター付きの物件で、南側には緑豊かで広大な庭園もしつらえた高級賃貸マンションです。ファミリータイプの15戸で、家賃設定も当時としては割と高めでしたが、大手企業関係者を中心になんとか満室にする事が出来たと記憶しています。あれからもう30年以上経過しましたが、適宜に戸別リフォームを繰り返しながら、今日でも高い入居率を誇っています。
さてAさんの1棟目の物件引渡しを終えると共に、南こうせつさんの物件の入居者募集も順調に進みましたので、Aさんもようやく次の賃貸マンション建設の話に耳を傾けて下さる様になりました。
今にして思えばAさんは1棟目の鉄骨アパート建築で、我が社の建築業者としての施工能力を見定め、南こうせつさんの賃貸マンションの募集で不動産業者としての営業能力を見極めようとしていたのかもしれません。おかげさまでAさんのお眼鏡にかなったのか、その後Aさんの所有する空地に鉄筋コンクリート造6階建てのエレベーター付き賃貸マンションを建てさせて頂く事になりました。1階部分は店舗にして、2階以上は3LDKのファミリータイプでした。当然ですが請負金額は1億円を超えるほどの大きなプロジェクトとなりました。
数年にも及ぶプロジェクトではありましたが、この時ようやく我が社としましては実を結ぶ事が出来まして、社長からも初めて労いの言葉を聞く事が出来ました。
しかし、私にとっては工事の受注がゴールではありません。こうせつさんの物件と同様に、Aさんの物件にも入居者を入れてしまう所までが私の仕事です。当時はインターネット広告が普及していなかった為に、工事中に募集チラシを作成して、完成間近に新聞折り込みを入れる手法がメインでした。そして問い合わせがあれば杵築まで出向いて行き、物件の案内をしていました。片道1時間以上の道程を何度も何度も往復しましたが、当時はまだ自分も若かったから乗り切れたのだと思います。
そして実際に入居者募集を始めて分かったのですが、当時の杵築ではエレベーター付きの6階建てマンションは珍しく、お客様の反応は概ね好評でした。6階の居室から外を眺めると、周りは2階建て程度の建物しかない為、市街地の遠くまでを見渡す事が出来ました。完成後真っ先に案内したAさんも「もう、この6階の角部屋だけは人に貸したくない。自分の書斎にする。」と言い出す始末でした。
6階の角部屋は最も高い家賃が取れる部屋でしたので、Aさんの御要望は丁重にお断りして、募集は継続させて頂く事に致しました。それでもAさんは入居者が決まるまでは、しょっちゅうその部屋に入り浸っていた様子で、奥様からは「主人はとにかく高い所が好きなのよ。居ないと思ったらその部屋に行ってるわ。私は高い所が苦手だから行かないけどね。」と言われました。かくして、Aさんにとって初めての6階建ての賃貸マンションは完成後間もなく満室となり、Aさんも大満足でした。
こうなりますと、その後はAさんの方が前のめりとなりまして「松岡君、今度はこの土地の倉庫を解体するから、ここに建てられる賃貸マンションの設計をしてもらえないかな?今度は2LDKがいいと思うんだがどうかな?」と私が営業をする前にAさんの方から持ち掛けられる様になりました。
そしてこの2棟目のマンションを受注した頃から、我が社での私の扱いがかなり変わりました。これまでは私の事を『押しが弱く、うだつの上がらない営業社員』としか見ていなかった社長も、大型物件を次から次へと受注して来る敏腕営業マンの様に崇める様になり、営業会議でも「誰のおかげでお前らはメシを食えていると思っているのか!」とまで言い放つ始末です。
私としては色んなことが運よく神がかり的に進展しただけで「こんな案件はそう長く続くものではないから、あんまり高く持ち上げないで欲しいなぁ。下手をするとその後の落差で大怪我しそうだし、他の社員からの反感も怖いから、あんまり煽らないで欲しいんだけどな~。」と内心複雑な思いでいました。
そうして2棟目も完成して入居者も順調に決まっていた時に、Aさんから「松岡君、杵築に支店を出しなさい。」と言われました。1棟目、2棟目を建てた際に、入居者を入れるだけではなく、その後の家賃管理も同時に依頼されていましたので、大分銀行の杵築支店に口座を作り、そちらへ入居者からの家賃をプールして、翌月の初めに我が社からAさんの口座へ一括振込みする流れを作っていました。
Aさんは続けて「今後も賃貸物件は増やしていくつもりだし、ゆくゆくは私の物件の管理を全て君の会社へ任すから、杵築に支店を構えて、どっしりと仕事をしてもらいたい。」と言われました。
Aさんの物件全てを管理する事になれば、管理料もかなりの額にはなります。支店の出店経費を差し引いても大いにメリットがある事は予測できましたが、あとは我が社の社長がどう判断するか、それ次第と言った状況でした。
そこでAさんにもお願いして「今度社長を連れて来るので、直接うちの社長に杵築支店の話をしてもらえませんか?私が説得するよりも、おそらくその方が効果的だと思いますので。」と伝えて、社長を杵築まで引っ張り出す事にしました。
私は社長へ具体的な用件は伝えず、Aさんから社長へ話があるとだけ伝えました。社長もAさんから話があるとなれば顔を出さない訳にも行かず、私と共にAさん宅を訪問致しました。そしてAさんの口からは、今後も杵築市は発展する可能性が非常に高いという話が暫く有り、だからこそ我が社の協力が不可欠であると説かれたのです。その言葉に社長もつい「我々に出来る事があれば何でもお申し付け下さい!全力を挙げて協力致します!」と宣言してしまったのです。
その言葉を聞いたAさんは、ちらりと私の顔を見た後、社長に向かって「そこまで仰って下さるのであれば、是非とも御社の杵築支店を開業して下さい。杵築支店の売り上げは私が必ずバックアップしますから。」と言われました。
帰りの車の中で社長は「あそこまで俺も言い切ってしまったからなー。今さら支店を出さんとは言えんよなぁ。まー会社へ帰って、幹部会議を開いてからにはなるけどなぁ。」とぼやいていましたが、ここまで来ればもう確定事項だろうと私は考えていました。
