家賃1万円以下の1Kアパート

2025年04月17日

最近になってアポ無しでふらりと御来店されるお客様から「関東から来ました。この町には家賃が1万円以下のアパートが有ると聞いたので、是非紹介して下さい。」と言われる事が多くなりました。

 

その場合「確かにその様な物件はある様ですが、弊社では取り扱いがございませんので、○○という不動産会社へ直接行かれると良いですよ。」と弊社ではお伝え致しております。

 

以前にもコメント致しました様に、弊社では他社様の物件は取り扱いをしない事にしていますし、そもそも家賃が安いと言う事は、成約時の仲介手数料も家賃1ヶ月分が限度の為、非常に安価であるので、その手数料の中から半分を弊社が持って行くとなると、管理会社にとりましては更に収入減となる訳ですから、申し訳なくて間に入ろうという気持ちにはならないですね。

 

ところで最初に書いた様なお客様が多数来られる様になった大きな要因としましては、YouTuberの方の影響が最も大きいのではないかと思っています。実際に杵築市内の家賃1万円以下の1Kアパートを借りて、情報発信されている方の映像を見た事があります。

 

確かに都会の方からしましたら、都会で駐車場を1台分借りるよりも安くアパートが借りられる訳で、部屋自体もそんなに古い訳ではありませんから、リモートワークで殆どの仕事が可能な方であれば、家賃の高い都会に住む必要は無いと言えます。

 

街はずれで買い物の利便性が若干劣る事と、夏場は虫やクモの巣が多くなり、通路も虫だらけになる事さえ気にしなければ、安くて快適な住まいと言えるのではないでしょうか。

 

ところでどうしてこの様に激安なアパートが杵築市と隣町の国東市には沢山あるのでしょうか。その謎についてこれから少しだけ触れてみる事にします。

 

実はこの家賃1万円以下の1Kアパートも、最初の頃はおそらく家賃4万円位の設定だった筈です。大分空港の近くの国東市に某大手企業がありまして、その工場で働く従業員のうち、かなりの人数が派遣社員で占められていました。リーマンショックが起きるまでは、どんどんラインを増設して人数も増やしていました。

 

大手企業にとりましては、派遣社員というのは本当に都合の良いもので、増やしたい時にはすぐに派遣会社へ要請して百人単位で人を増やせ、必要が無くなればすぐに百人単位で人を減らせるというメリットがあります。

 

そのメリットを最大限に活かせたのが、図らずもリーマンショックであったと言えます。リーマンショックにより、製品の海外需要が急激に落ち込んだ時に「派遣切り」とも言われましたが、派遣社員を大量解雇する事で、大手企業は社員の人員整理をせずとも、会社の窮地を乗り越える事が出来た訳です。

 

かくして大手企業は難を逃れましたが、その煽りを受けたのが派遣会社と地元のアパート経営者でした。大手企業が増産して、派遣社員を百人単位で増やしていた頃、派遣会社は社員の住む社員寮の確保に追われていました。それまで空室だったアパートや戸建ての貸家さえも、全て派遣会社が借り上げ、それでも足りないので空き地を持っている地主と交渉して、長期借り上げをするので1Kアパートを建てて欲しいと依頼して、街はずれや山の中にまでも次々と1Kアパートが建って行きました。

 

そしてその過密状況がその先何年も続けば良かったのですが、さほど日を置かずにリーマンショックが訪れ、派遣切りが始まったのでした。派遣会社も社員が百人単位で減らされていく訳ですから、当然アパートの借り上げも解約せざるを得ない訳です。ひどいケースでは賃貸借契約を締結していたにもかかわらず、建物の完成前に派遣切りが始まったので、大家さんは違約金を受け取ったくらいで家賃は1度も入る事なく解約となったケースもありました。

 

大家さんも家賃収入を見込んで借金をしてアパートを建てた訳ですから、家賃が入らなければもうアウトです。街中に建てられたアパートであれば、まだ一般の入居者を地道に入れて行く方法もありますが、街はずれとなるとそれも難しいです。しかも同様のアパートが周りにもゴロゴロ余っている訳ですから尚更です。

 

建てたばかりのアパートに入居者が入らないので、金融機関への返済も焦げ付き、ついには自己破産にまで追い込まれた方が多数いらっしゃいました。そして建築資金を融資していた農協までもが破綻をしてしまいました。地方銀行はその様な事態が近い将来起きる事を危惧して、早い時期からアパート資金の融資を通していませんでしたが、杵築市農協にはその様なリスクマネジメントは構築されていなかったのでしょう。

 

アパート経営が破綻して所有者が破産すると、アパートは裁判所によって競売に掛けられます。しかしこのエリアのアパートには需要が無いと見たのか、かなり安い価格設定であったにもかかわらず誰も落札しませんでした。そうなると裁判所は最低落札価格を更に引き下げて競売に掛けるしか方法がなく、その結果その激安価格を知った県外の投資家が「この価格で築浅の1Kアパートなら、家賃を1万円弱に設定しても利回りは10%超えるじゃない。さすがにこのくらい家賃が安かったら、街はずれでも入居者は入るんじゃない?」と考え、落札をしていったのでした。

 

ここで家賃1万円以下の1Kアパートが誕生するのですが、これが負のスパイラルの始まりとも言えます。この状況下でも、なんとかギリギリ持ちこたえていた大家さんもいたのですが、その方のアパートに住んでいた入居者がこぞって家賃1万円以下のアパートに移り住む様な流れが生まれたのです。それまで家賃3万円位払っていた入居者の方にとっては、多少不便でも激安なアパートはかなり魅力的な存在だったのではないでしょうか。

 

そうなると二次的に入居者を失った大家さんの末路は明白です。最初の大家さんと同様に家賃収入は途絶え、最終的にアパートは競売に掛けられ、それを県外の投資家が格安で落札していくという流れが生まれ、第二第三の被害者を生む負のスパイラルは、しばらくの間だれにも止める事が出来ませんでした。